デザイン評価軸としてのHCD:ユーザー中心のPDCAサイクル
僕はほかの2人(長谷川、圓城寺)と違い学術的なバックグラウンドは何も持っておらず、美大出身の、それも成績優秀でない(思えばバイトばかりしていました。もっと遊べば…もとい勉強していればよかった)出自です。
今回、英検4級以外にはじめて資格が加わりました。
つまり、このHCDというプロセスは、決して限られた特定の人たちのものではありません。
ウェブの仕事というのは、人間が使うツールを設計し、デザインするものです。
PCとネット環境さえあれば誰でも簡単にアクセスできるウェブサイトだからこそ、「使いにくかったらもう訪問してくれない、簡単に他社に流れる」という切実な問題があります。そのため、形やレベルの違いこそあれ「ユーザーにどう使ってもらうか」が意識されてきました。要は「誰のためのデザインか」ということです。
雑誌の編集デザインも同じではないかと思います。
表紙でターゲットに訴求し、目次でその号の内容を網羅します。これはウェブサイトにおけるトップページの役割とまったく同じです。誌面でも、大見出しでその記事の内容を一言で示し、リード文を語り、小見出しでセンテンスの内容を示しますが、問題はその「読者層が誰なのか」であって、いくら美しいレイアウトだとしても、対象となる読者にとって的外れであれば意味がありません。
ウェブプロジェクトでは、この「対象者」が誰なのかをしっかりと定義します。
例えばインタビュー調査を行い、実際のユーザー(になる人)が何を考え、何を欲しているのかをユーザー属性ごとにモデル化し、優先度をつけてそれぞれに最適な方法でコンテンツを提供します。
また、ウェブサイトは作って終わりではなく運営していくものなので、複数の部署の企業担当者にヒアリングを行い、運用フローや更新ツールの設計を行います。
これらの準備、実施、結果を誰にでも理解できる形に落としこむことがHCDの重要なプロセスのひとつですが、その答えは往々にして最適解が見出しにくいデザインの評価軸になり得ます。
つまり、受発注双方ともに、プロジェクトを円滑に進めるための論拠となります。
また、このように考えて作られたウェブサイトが、実際どのように使われているのかを評価し、その反省をすぐに改善点として修正できることもウェブの大きな特徴のひとつです。
雑誌においては、表紙から最後のページまで、読者がどのような順番で、間に挟まれる広告を含めどのページを読んだのかを知る術は無いと思いますが、ウェブの場合はすべてデータとして分かります。
そのため、客観的データを元に効果測定を行うことができ、一旦完成品として世に送り出された後も、継続して修正(編集)を加えていきます。
このように、ウェブサイトの制作においては「使ってもらわなければ意味がない、使ってもらえるようにしないといけない」という意識のもと、企業の組織都合や利益都合ではなく、ユーザーを中心に考えるPDCA(Plan・Do・Check・Act)サイクルによって継続的な設計・制作・改善が繰り返されます。
そのあらゆる場面において、HCDの考え方・プロセスは非常に有効に働き、プロジェクトの形成、成功に寄与しています。
大岡旨成(おおおか・むねなり)
執行役員/ディレクター
1978年東京都生まれ。東京造形大学卒業(メディアデザイン)。株式会社デジタル・マジック・ラボ(現アンカーテクノロジー株式会社)を経て、2003 年コンセント入社。ディレクターとして、東京国際フォーラムやカネボウ化粧品など多くの企業サイトの要件定義・設計・ディレクションを担当。近年はプロジェクトマネージャーとして、プロジェクト設計やサイト戦略立案など、企業活動におけるウェブの問題解決にあたっている。