コンテンツの原石を発見する取材の現場 取材の流れとヒアリングシート作成のポイント
- コミュニケーションデザイン
- コンテンツデザイン

社内の人材育成を目的としたコンセントの独自研修プログラム「コンセントデザインスクール」。今回は私、コンテンツディレクターの松田彩が『コンテンツの原石を発見する取材の現場』と題したプログラムを実施しました。本稿では、取材相手やクライアント、ライターの方々など関係者の多い取材現場を10年間で300本以上ディレクションした経験から得た知見について、実際に取材が生きたコンテンツの事例とともにお届けします。
デザイン会社がつくった研修制度「コンセントデザインスクール」
目次
1. コンテンツにおける取材の役割とは?
世に出ていない生の情報を得ることができる「取材」。取材対象者から語られる言葉は常に刺激的で、日常では会うことが叶わないような著名人にも生の声をお聞きすることができる貴重な機会です。
コンテンツに必要な情報を収集するには「Webで検索」「本を読む」「イベントに参加する」などさまざまな手段がありますが、取材もその手段の一つ。クライアント自身も気づいていなかった魅力を新たに発掘する気持ちで、取材対象者の言葉に耳を傾けています。

取材は、「資料がない」「情報が見当たらない」など、自力で情報にたどりつけない場合や事実確認・時系列に不明点が多くあるなど、関係者しか知りえない情報が不足している場合はもちろん、コンテンツ上においてその熱意を本人の言葉で伝えたい場合にも行います。
すでに情報が揃っており、取材せずともコンテンツ化できそうなときでも、キーマンと直接顔を合わせておきたい、あるいは企画に対してあまり好意的でない方の意見を聞いておきたい等、信頼関係を構築したい相手とのコミュニケーションの場として取材をセッティングするのも効果的です。
一般的に取材というと対面で行うイメージが強いと思いますが、遠方にお住いの方や予定が合わずに直接会うことができない場合もあります。そんなときは、電話やチャットツールを用いたリモート取材や、アンケートシートを用意して書面取材を行います。
対面取材は得られる情報量が一番多く、取材対象者の表情や雰囲気、コンテンツの見せ方について都度その場で解決できるなど対象者との協力関係がつくりやすいメリットがあります。一方で取材のために指定の時間と場所に拘束されるため、スケジュール調整がやや難しいところがデメリットです。
リモート取材ではスケジュールさえ合えば違う場所にいても取材を行うことができる身軽さがメリットですが、対面取材ほど細やかな部分はキャッチしづらいデメリットがあります。
書面取材の場合は、アンケートシートをお渡しし、そこに回答していただく形をとります。いつ回答してもいいというメリットはあるものの、回収にスケジュール管理が必要です。また、時間がない場合は、追加質問がしづらいため、あらかじめ聞き出したい情報に漏れがないアンケートシートになっているか、細やかに確認する必要があります。

撮影をともなう場合は対面取材を選択しますが、その際はコンテンツにふさわしい場所を選ぶ必要があります。また、取材対象者が遠方にいる場合は電話取材やチャットツール、電話会議などのリモート取材が、コンテンツに掲載する文字数が少ない場合や制作費用を抑えたい場合は書面での取材が適しています。いずれも、ケースバイケースで取材方法を選択するとよいでしょう。


立教大学様の大学受験生向けタブロイド広報誌「RIKKYO LIFE」。取材前に学生100人以上にアンケートをとり、学内の情報を集めて取材対象者を選出した。

桜美林学園様の大学広報誌&校友会誌「J. F. Oberlin Tokyo」。教授に取材をし、ご本人の研究分野から予測される「日本の未来」についてまとめた企画。
2. 取材までのステップ

Ⅰ. 企画
前項では「どんなときに」「どんな形式で」取材を進めるのが効果的かをお話ししましたが、どんな取材もコンテンツの企画なしに進めることはできません。取材対象者の選定や打診、取材項目の作成も、コンテンツの企画の骨組みで全てが決まります。
媒体、該当ページの目的、読者のインサイト(ターゲットがコンテンツに触れたときの心情など)、取材の必要性、最終的なコンテンツの形などを考慮しながら、取材対象者がどのような形でコンテンツに登場するかまで、細部に渡るポイントを最初の段階で決め込んでおくことが重要です(そうしておくことで、のちに企画がブレない)。
Ⅱ. 人選
企画がまとまったら取材対象者を選定します。著名な方であればWebで検索するだけで活動内容の詳細や過去のインタビューが閲覧可能で、企画意図に沿った人選を制作側が行うことができます。取材対象者が一般人である場合は、制作側だけで情報収集するには限界があるため、企画の具体例をクライアントに提示し、企画に合う方を選定していただいています。
取材対象者が有識者や著名人の場合
- 企画やテーマが、その方の活動と合っているか
- その方の過去の行動や発言から、コンテンツのストーリー展開を想像できるか
- クライアントとの親和性があるか
- その方とクライアントの組み合わせで相乗効果が生まれるか
上記を考慮し、プロフィールや過去のインタビューなどによるこれまでの発言からコンテンツのテーマと親和性の高い言葉を抽出。そのコンテンツに対象者が出演する必然性を感じる接点を見つけ、コンテンツ上でどのようなストーリーが展開できるかまでを想像し、人選を提案します。
取材対象者が一般の方の場合
- 企画やテーマが、その方の活動と合っているか
- 自分の考えを自分の言葉で語れるか
- (複数人出る場合)コンテンツ上でのバランスがいいか
上記を考慮し、クライアントに人物像を詳しく伝えるための人選案シートを作成します。これは、どんな人がコンテンツに登場したらをおもしろいかを検討するためにさまざまな項目を設けて分析するシートで、その人の取り組みや想いがどのような形でコンテンツに生きるか可視化できるものです。
【人選シートに盛り込む内容の例】(コンテンツに合わせて項目は変動します)
- 所属
- 年齢
- 性別
- 活動内容
- その方が登場することで紹介できるクライアント情報
- その方の未来のビジョン
など
Ⅲ. 取材申し込み
取材対象者や撮影場所についてクライアントと合意が取れたら、取材申し込みをします。取材対象者にツテがある人からコンタクトを取れるとベターです(知り合いからの相談の方が、安心して引き受けてくださる方が多いです)。
クライアントやプロジェクトメンバーにツテがない場合でも、顔が広そうな編集者の方や周囲の知人など知り合いをたどってアプローチをします(情報の共有範囲には細心の注意を払います)。
ツテが全くない取材対象者には、その方が所属している企業・団体を介して取材申し込みをすることが多いです。メールで問い合わせることが一般的ですが、私は電話やSNSからの連絡、イベントに赴き直接会いに行くなど、諦めずにアプローチし続け、企画に対する熱意をダイレクトに伝えています。

取材申し込みをする際は、取材対象者が「この企画に出たい」と思えるだけの熱量のこもった企画書、取材申し込み書、掲載イメージを準備しましょう。
私がつくることもありますし、編集を外部委託している場合は編集担当者がつくることもあります。
- 掲載媒体の説明
- 発行元紹介
- 自己紹介
- 企画概要
- 取材依頼
- 取材希望日程
上記に加え、私はコンテンツ制作においてその人でなければならない理由を愛を込めて伝えることを大事にしています。
Ⅳ. 取材準備
基本的な取材準備における重要なポイントの一つは「質問項目・事前ヒアリングシートの作成」です。これらは事前に取材対象者に送付して取材前までに回収し、取材当日に掘り下げるポイントを検討するための参考にします。
これは、コンテンツ制作側の事前情報把握のためだけではなく、取材対象者にとっても当日その場でいきなり質問されるよりも、問いに対する答えを考える時間ができるため、より回答に深みが出るからでもあります(これらは取材対象者の時間の余裕をみてお願いしています)。また、当日、現場でインタビューをするライターの方と事前ヒアリングシートの内容について情報のすり合わせをしておくと、当日の取材がよりスムーズになります。

ヒアリングシートのサンプル
3. 取材当日のために決めておくこと
取材の参加メンバー
当日の取材に参加するメンバーはライター、ディレクター、アートディレクターといった「職種」で選ぶのではなく、やることから考えます。これは「現場に来たものの、何をするのかよくわからない」といった考えのスタッフが現場にいることのないよう、自分の現場での役割を意識した上で参加してもらうためです。


取材当日の持ち物

取材現場で企画内容や関連情報をすぐに取り出せるように、資料を準備していく
服装
服装は、第一印象で相手に不快感を与えないことが絶対条件です。基本的には、クライアントや取材対象者に合わせた服装を選ぶようにしています。「信頼できる人」としてみてもらえるよう、見た目にも気をつけましょう。上下スーツ?ジャケット着ていればいい?動きやすさ重視でいい?など、どういう服装をしたらいいか迷うときには、取材に参加するメンバー同士で何を着ていくのか相談し、認識を揃えてから現場に臨んでいます。
4. 当日の取材の進め方

待ち合わせ
取材1時間前には最寄駅のカフェなどに行き、当日の資料をおさらいしながら取材の流れをシミュレーションします。1時間前というと、早めの入り時間のようにも思えますが、絶対に遅刻をしないための対策でもあり、インタビューする予定だったライターや編集の方が体調不良などで止むを得ず欠席してしまう可能性も考え、柔軟に対応できるように余裕をもっておくためでもあります。また、万が一に備え、取材メンバーやクライアントとは連絡先を交換しておき、連絡が取れるようにしておきます。
場所づくり
取材場所が大きな会議室などの場合は、机や椅子のレイアウトを変更して対面でインタビューできるようにセッティングします。取材対象者とインタビュアー(ライターや編集者等)の距離を適切に保ち、プレッシャーを感じないリラックスした状態でお話しいただけるように心がけています。

事前打ち合わせ
取材対象者が来る前に、クライアントやスタッフも含めた現場にいる全員で、当日の段取りや取材企画のおさらい、ヒアリングシートを見ながら取材で掘り下げるポイントを確認します。私はこの場では、企画がブレないように常に会話をリードする姿勢で参加しています(認識に齟齬があればこの時点でクライアントに指摘していただけます)。
挨拶
取材対象者と対面した際は、ラブレターを綴ったように熱を伝えた取材申し込み時同様、取材を受けてくれたことに対する感謝の気持ちを述べ、自分はどんな役割・立場なのかも含めて自己紹介をしましょう。

企画趣旨の説明
企画書の内容は取材開始前にあらためて取材対象者に説明します。デザインイメージがある場合はそれを一緒に見ながら、媒体・配布先・企画内容・企画の目的・読者ターゲット・テーマを共有し、取材対象者に「読者が読んだときにどう思うか」「読後、どのような行動を起こしてほしいのか」を共有します。この目的を取材対象者が知ることで、紐づく体験談や企画に沿った言葉を用意してくれる場合もあります。また、恣意的にインタビューしたくない場合は、取材と企画に関わる最低限の情報のみを伝えて取材することもあります。
インタビュー
インタビュー時は取材対象者がリラックスして本音を話せる環境づくりに努め、
- 相手の名前をしっかり覚える、呼ぶ
- あいづちを大きめに打つ
- メモを取りすぎず、取らなさすぎず
- 取材対象者が話しているときは口を挟まない
- 沈黙を恐れない
- 具体的なことを聞き出す(数字や取り組み内容、感情など調べてもわからないこと)
- 下調べした情報で話題を提供する
最低限、上記の7つができるように心がけています。抽象的な話題では原稿上での表現が浅くなってしまうため、リアルな感情や数字にまつわる話題をこちらから提供することで取材対象者から新情報を引き出すことも。取材対象者が言葉に詰まってしまった場合は、欲しいコメントから逆算してクライアント情報や業界情報をこちらから提供します。

取材終了時には、取材対象者から聞き漏れがないよう、同席しているクライアントやスタッフにも「他に聞きたいことはありますか?」と念のため確認し、小さな疑問が残らない状態でインタビューを終了します。
取材後の予定
取材終了後には、取材対象者にコンテンツがリリースされるまでのスケジュールとして次のことをお伝えします。
- 資料の締め切り(資料をいただく場合)
- 原稿確認時期と期間
- 完成時期
- 見本誌の送付時期
原稿確認の期間が少ししか取れない!など制作進行上で言いづらいこともこのときに直接交渉しておくといいでしょう。
クライアントとは、取材内容をおさらいしながら、原稿のメインテーマと大まかな流れ(プロット)、オフレコにしなければならないポイントなどについて認識を揃えるようにしましょう。
原稿作成後の確認がスムーズに進められるポイントです。
5. 取材後
取材後は、取材対象者には、メールか手紙で感謝の気持ちをすぐに伝えます。そして、残りのコンテンツ制作(文字起こし発注、プロット作成、原稿作成、写真選びなど)を進行し、一連の取材対応が終了となります。
以上が『コンテンツの原石を発見する取材の現場』でお話しした内容になります。他にはない唯一無二のコンテンツは、周到な用意、チームワーク、現場での“相手を見る力”、で織り成された取材のもとに生まれます。取材対象者から「ただ話を聞く」だけではない、能動的な姿勢で取材に臨みましょう!
コンセントではこのような研修を通じて、異なる領域で活躍しているデザインプロフェッショナル同士が意見交換し、相互理解を深め、新しい視点を獲得しています。今回のレポートを通じて、デザインやコンセントの仕事に興味をもっていただければ幸いです。
- テーマ :