UXライティングとは何か 人間中心の「言葉のデザイン」で企業価値を高める
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こんにちは、コンセント Design Leadershipの太田です。
UXデザイン、UXリサーチなど、UX=ユーザーエクスペリエンスにまつわる言葉がビジネスの現場で多く使われるようになりましたが、最近にわかに「UXライティング」という言葉が注目を浴びるようになっています。
ユーザー体験におけるライティング、つまり言葉のデザインとも言えるこの活動は、そのキャッチーな語感とは裏腹に実態がよくわからないといった声もしばしば聞かれます。
そこで今回は、UXライティングという新たな活動の潮流と実際について、長く人間中心デザインに取り組んできた私の視点からお話ししたいと思います。
UXライティングとは?
UXデザインという活動は今や当たり前のように行われるようになりました。国内においても多くの専門家が活躍し、明らかな事業成果を出し続けています。企業活動におけるその有益性・必要性についてはもはや議論の余地はないと言えるでしょう。
しかしながら、ユーザーとの対話を伴うタッチポイントの設計・実装において、極めて重要であるはずの “言葉のプロフェッショナル” の存在と役割について、これまではさほど取り沙汰されていなかったというのが実情です。
UXライティングは、まさにその問題を焦点化し、相応しいスキルをもった専門家が関与することで “言葉のデザイン” の質を一段と高度化する活動であると言えます。
更に、昨今のコロナ禍におけるオンライン化、デジタル化の加速の流れにおいて、ユーザーとのあらゆるタッチポイントにおける “企業の言葉” の役割・重要性がより一層増していることも、UXライティングという領域が注目されるようになった要因であると考えられます。
UXライティングの事例
UXデザインにおいては
- 1.ユーザーの視座で物事を考え、 ユーザーがどう在りたいか、何を成したいのかを明確にイメージする
- 2.そのための手助けをテクニカルなアプローチで実現する
という大まかな流れがありますが、この “テクニカルな” という点において、前述した言葉のプロフェッショナルがその能力をもってコミットするのがUXライティングの実際です。ここで事例を3つほど見てみましょう。
まず、表層的なUXライティングの効果がわかりやすい「操作の誘導」です。

これはFacebookの記事投稿フォームですが、ここでは「気持ちを書いて投稿する」ことをシンプルに促しています。重要なライフイベントなどがなくても、軽い動機でシステムを利用させることを期待、つまりトラフィックを増やすことを目的としたワーディングです。
ユーザーは「次に何をすればよいのか?」という単純な疑問をもち、それに対する直接的な答えを求めているのだ、という仮説に基づいた実装であると考えられますし、そのような暗黙的な欲求に寄り添う姿勢を言葉で明確にすることが彼らのブランド戦略において重要なのだ、と見て取ることができます。
そして、今回注目するのは「ブランド体験における人格的訴求のためのUXライティング」と言えそうなこちら、

Twitterが一時的に使えないときに現れる、あの有名なクジラをキーワードとして用いたサービスステータスの周知画面です。これを単に「負荷が高くなっており、サービスのご利用に制限が生じています」といった文章にするのは簡単ですが、あえてこのようなワーディングを行うことによりユーザーが“この状況をなんとなく許してしまう”ことを期待しての実装となっていることが大きな特徴です。
また、早くからUXライティングの領域において多くの実践的な取り組みを行っていることで知られるSlackでは、アプリのアップデート情報においても、

このようにユーモアを交えつつ、徹底したユーザー視座でのワーディングを行っています。
UXデザインにおけるUXライティングにおいてはともすれば操作の説明や誘導ばかりに目が行きがちですが、この3つの例のようにその企業が提案する製品やブランドの体験全体に “言葉の力による人格的な一貫性” をもたせるといったことも達成目標になり得ます。
企業やブランドの人間性、ユーザーに寄り添う姿勢は言葉なくしては伝わらないのです。
UXライティングのプロセス
言うまでもないことですが、UXライティングもUXデザインの一貫である以上、デザイナーの思考方法をもってアプローチすることになります。具体的にはHCD(Human Centered Design=人間中心デザイン)プロセスと呼ばれる、
- 1.利用者・対象者を正しく知る
- 2.問題を定義する
- 3.問題解決のためのデザインをプロトタイピングしながら行う
- 4.デザインが機能しているかを評価する
という基本的なフローを実施することになります。
大きくはサービスデザインの取り組みにおいて、小さくはUXデザイン・UXライティングに至るまで、というように焦点距離を柔軟に変えながら進めるフラクタルなプロセスを、反復的に実施することが肝要です。
そして、従来からライティングの業務に関わってきたテクニカルライターやコピーライターだけでなく、HCDの専門家やUXデザイナー、サービスデザイナーといった人間中心デザインのプロフェッショナル、そしてビジネス領域の関係者やエンドユーザーをも含むあらゆるステークホルダーと協調しながら推進していく、領域横断的・共創的なアプローチが求められることは言うまでもありません。
つまり、UXライティングにおける言葉のプロフェッショナリズムとは、単一のタレントによって構成されるものではないという点が非常に重要なポイントであると言えます。
UXライティングが企業価値を高める
ここまでお話しした通り、「企業がユーザーに対してどう在りたいか」を端的に表現しブランディング活動に寄与するという点において、UXライティングは非常に有効な手段である、と言えます。
繰り返しになりますが、UXライティングはユーザーの表層的な行動を助けるためにだけ行うものではありません。企業としてどのような人格・人間性をもってユーザーに接するのか、語りかける言葉をさまざまな領域のプロフェッショナルが人間中心でデザインすることは、単なる「使いやすさの追求」にとどまらず、ユーザーにとってその企業の存在を真っ当なものにするための重要な活動である、ということです。
企業価値を高めるための、これは極めて重要なアプローチです。
「ブランドはもはや企業のものではない」と言われて久しいですが、真のブランドオーナーである顧客に対して人間的でありたい、社会的でありたいと望む企業が取り組むべき活動として、言葉の力でビジネスと人々、そして社会を動かすUXライティングは今後ますます重要性を増していくのではないでしょうか。
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