ダークパターンレポート2024ダークパターンの
無自覚な使用を防ぐために

4社の取り組み例から
考察する、
防止活動普及の鍵

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消費者よりも企業にとって都合の良い行動を取るようにし向ける手法、ダークパターン。

悪意のある事業者が意図的に用いる手法だと思われるかもしれません。
しかし、ビジネスで求められる目標を達成するため、
悪意がなくても結果的にダークパターンを用いてしまう可能性があります。

企業はどうすればこの「ダークパターンの無自覚な使用」を防ぎ、
消費者とのより倫理的な関係性を目指していけるのでしょうか?

コンセントでは、所属企業にダークパターン使用防止の取り組みがある
ビジネスパーソン4名にインタビューを行いました。

本レポートは具体的な取り組み内容を紹介するとともに、
そこから見えたダークパターン問題に向き合う上での課題や
無自覚な使用を防ぐための論点を考察するものです。

調査結果のハイライト

使用防止の取り組みとその効果

  • ダークパターンの使用を防止するための企業の取り組みには、「研修の実施」「マニュアルやチェックリスト、チェック体制の整備」「法律の専門家など、社内外を含めた報告・相談の仕組みづくり」が共通して見られた。
  • 「メールマガジン受信のデフォルト設定を見送る」など、取り組みによるダークパターン使用防止の効果が一部の企業で見られた。

ダークパターンを判断する難しさ

  • ダークパターンには法的リスクがあり、消費者庁などによる取り締まりが近年強化されている一方、「法令上の線引きの難しさ」と「企業の倫理観が問われる」側面があり、法制度だけでは防止しきれない。
  • 4社においても、法令観点からの線引きの難しさがあり、企業の姿勢も問われる中で、「何を“虚偽”と考えるか?」「たとえ事実であっても“焦らせる”ことをどう捉えるか?」などの判断に揺らぎが見られ、“ダークパターンを判断する難しさ”に直面している。

使用防止のために必要なこと

  • 「ダークパターンは一律な判断をすることは難しい」ことを前提に、法令・ユーザーからの声・望ましい企業姿勢といったあらゆる観点からのチェックと議論が、ダークパターンの無自覚な使用を防止するためには必要となる。
  • 「ユーザーにとって不利益ではないか?」と声を上げられる倫理観と、さまざまな役割の人がオープンに意見を交わせるカルチャーの醸成が、企業には求められる。
  • 企業がダークパターン防止に取り組みやすくなるために、「接触する可能性のある法令が、業界ごとにわかりやすくまとめられること」「倫理観点から対応を検討すべき点が、行政などから発信されること」「具体的な取り組みが、社会へ共有されていくこと」という、業界・行政・社会の3視点での環境づくりが必要である。

目次

1はじめに

なぜ「ダークパターンの無自覚な使用」をする可能性が企業にあるのか。使用によるリスクは何か。本インタビュー調査に至った背景、調査対象などの概要を紹介する

2ダークパターン使用防止の取り組み事例

ダークパターンの使用を防止するために、具体的にどのような取り組みがあるのか。4人のビジネスパーソンが所属する企業における取り組みの内容とその効果を見ていく。

3ダークパターンを判断する難しさ

ダークパターンの規制につながる法制度は存在しており近年取り締まりも強化されている。しかし、法制度が充実してもダークパターンの使用は防ぎきれない。そこにある「判断の難しさ」について、4社における判断の実態を紹介しながら考察していく。

4総括

「ダークパターンの無自覚な使用」を防ぐための具体的な取り組みと、そうした企業の取り組みを推進していくために必要な業界・行政・社会の在り方を考え、調査内容を総括する。

1はじめに

調査背景

日本では2023年から2024年にかけて、「ダークパターン」の存在が広く消費者に認識されるようになった。

ダークパターンとは、主にウェブサイトやアプリを利用する際に、消費者をだましたり操ったりするなどして、消費者自身よりも企業にとって都合の良い行動を取るようにし向ける手法である。例えば、ECサイトでカウントダウンタイマーを表示して商品購入を焦らせたり、入会や契約時よりも退会や解約時の手続きをわかりづらくしたり複雑にしたりしている場合などがダークパターンに該当する。

代表的なダークパターンの例を表した図。行為の強制・インターフェース干渉・執拗な繰り返し・妨害・こっそり・社会的証明・緊急性の7つが紹介されている。

代表的なダークパターンの例。さまざまな機関により分類が定義されている。こちらのイラストは、経済協力開発機構(OECD)の分類をもとにしたもの。
拡大版イラスト(PDFデータ)はこちら拡大版イラスト(PDFデータ)はこちら

コンセントでは2023年8月に、ECサイトやアプリでの購入経験者を対象としたダークパターンの認知度やひっかかった経験などの実態調査を行い、同年11月に「ダークパターンレポート2023」として公表した。

2023年11月の公表当時、ダークパターンの社会的認知度はまだ低い状況であったが、この「ダークパターンレポート2023」は、新聞、テレビ報道番組、ウェブメディアなどで広く取り上げられ、企業の経営層を含む多くのビジネスパーソンにダウンロードされることとなった。入手目的としては、公表当時の背景を受け、「ダークパターンについての知識を得たいため/理解を深めたいため」が多く見られたが、「自社でダークパターンを使っていないか確認したいため」というものも目立ったことに着目したい。

経済協力開発機構(OECD)では2022年にまとめた報告書*1の中で、ダークパターンが使用される目的を「消費者にとって望ましい範囲を超えた、金銭の支出や個人情報の開示、または時間の消費につなげること」とし、「ユーザーインターフェースの設計者側に悪意がなかったとしても、根本的なビジネスモデルと密接なつながりがある」と指摘している。

ダークパターンというと悪意のある事業者が用いる詐欺まがいの手法であると認識している人も多いだろう。昨今多くのメディアで取り上げられている通り、多額の金銭的損失を消費者に与える悪質なケースが存在するのも事実だ。

しかし、金銭や時間を費やさせたり個人情報を提供させたりすることはビジネスで求められやすい目標でもあり、悪意なく結果的にダークパターンを使用してしまう可能性を考えれば、私たちは誰しもが「ダークパターン使用予備軍」であるといえる。

つまり、ユーザーインターフェースの検討に関わるディレクターやマーケター、デザイナーが消費者をだまそうという明確な意思をもたずとも、なんらかのビジネス成果を生み出そうとサービスをつくっていく構造の中にいる以上、「気が付いたら加害者になっていた」ということが起こり得るのである。

ダークパターンを使用してしまった場合、顧客体験の悪化からブランドイメージの低下につながり、悪質であると判断される場合には、業務停止命令などの行政処分の対象となり得る。

では、企業はどうすればこの「ダークパターンの無自覚な使用」を防げるのだろうか?
コンセントでは2024年2月、所属企業にダークパターン使用防止の取り組みがあるビジネスパーソン4名にインタビュー調査を行った。本レポートでは、各社の取り組みの内容や効果を紹介し、企業がダークパターン問題に向き合う上での課題について考察しながら、ダークパターンの無自覚な使用を防ぐための論点を整理する。

調査概要

対象者

調査対象者の条件:

以下の4つの条件全てを満たすこと

  • 会員登録や決済、個人情報登録を伴うウェブサイトやアプリを運営する企業に勤めている
  • 所属企業にダークパターンの使用防止の取り組みがある
  • 事業全体の統括や製品・サービスの企画開発、管理を担っている
  • ユーザーインターフェースの企画や設計に関与している

調査対象者の概要:

従業員規模 事業内容 役割、業務内容
Aさん 1,000名以上 事務用機器の販売 消費者向けのECサイトの分析
Bさん 1,000名以上 健康機器の製造・販売 マーケティング
Cさん 1,000名未満 電子機器の製造・販売 事業責任者
Dさん 1,000名未満 家具・インテリアの販売 販売戦略、販売管理

方法・時期

調査方法:
ビデオ通話によるオンラインインタビュー
インタビュー手法:
UXデザイナーによる半構造化インタビュー
調査時期:
2024年2月

コンセントの
ダークパターンに関する取り組み

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